- 20代30代で社会保険労務士の試験を受けようと思っているけど、資格取得後の働き方について知りたい
- 最近の社労士試験や社労士業務について若手社労士の生の声を聞いてみたい
社会保険労務士は、職務上で住民票や戸籍謄本などの個人情報を依頼者に代わって請求することができる権限が認められているいわゆる「八士業」の内の一つで、労働・社会保険の専門家として、労働保険・社会保険諸法令に基づいて、行政機関に提出することや、企業を経営していくうえでの労務管理や、社会保険、障害年金、国民年金、厚生年金保険についての相談・指導を行うことを生業とする国家資格です。
これから資格取得を目指す方にとって、実際に受けている年齢層や、合格後の流れってどういったものなの?という部分は気になりますよね。
本記事では、現役で若手の社会保険労務士が、社労士試験受験や実務の経験を元に、20代30代の社会保険労務士の現状についてまとめさせていただきました。
<この記事のポイント>
- 現役で若手の社会保険労務士が解説
- 20代~30代の試験合格者と登録者の状況を解説
- 試験合格後のメリットと流れを説明
目次
20代~30代の社労士はどのくらいいるの?
試験を受ける前の受験生の多くが勘違いしてしまっているのが、「社労士試験合格者」=「社労士」ではないこと。
試験に合格した場合は「社労士有資格者」や「社労士試験合格者」などと名乗ることはできますが、合格しただけでは「社会保険労務士」と名乗ることはできません。
「社会保険労務士」、「社労士」と名乗るためには全国社会保険労務士連合会に登録し、各都道府県の社労士会の会員になる必要があります。
今回は、20代~30代の「試験合格者」と「実際に登録している社労士」の割合を分けて紹介させていただきます。
20代~30代社労士の合格者数
毎年約4万人が社労士試験を受験し、その内の約6~7%が合格を勝ち取ります。その内、令和6年度の社会保険労務士試験の20代~30代の割合は下記の通りです。
- 24歳以下:2.1%
- 25歳~29歳:9.7%
- 30歳~34歳:16.1%
- 35歳~39歳:16.4%
40歳未満の合格者の割合は44%となりました。
いかがでしょうか?以外と多いなと感じられる方もいらっしゃるかと思いますが、合格者に関しては4割強を20代~30代の方が占めています。
ちなみに過年度合格者の内の20代~30代の割合は下記の通りです。
- 令和5年:44.4%
- 令和4年:41.1%
- 令和3年:48%
- 令和2年:42%
- 令和元年:41.3%
例年4割~5割の間で推移しているという結果となりました。
引用:【厚労省:令和元~5年度社会保険労務士試験の合格者発表】
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000183106_00004.html
引用:【令和6年度社会保険労務士試験についての情報】
https://www.sharosi-siken.or.jp/results/
20代~30代社労士の登録者数
では、実際に全国社会保険労務士会に登録をし、都道府県社労士会の会員となっている20代~30代の社会保険労務士はどのくらいいるのでしょうか?
毎年発行される「社会保険労務士白書」のデータから独自に分析してみました。
令和元年から~令和5年までの年度末における社会保険労務士(登録者)全体の人数の推移と併せて表記していきます。
令和元年度:42,887人(平均年齢55.3歳)
20代割合:0.4%
30代割合:8.1%
引用:【社会保険労務士白書2020年度版】
https://www.shakaihokenroumushi.jp/Portals/0/doc/nsec/kouhou/2021/%E7%A4%BE%E4%BC%9A%E4%BF%9D%E9%99%BA%E5%8A%B4%E5%8B%99%E5%A3%AB%E7%99%BD%E6%9B%B8.pdf
令和2年度:43,474人(平均年齢55.6歳)
20代割合:0.4%
30代割合:7.6%
引用:【社会保険労務士白書2021年度版】
https://www.shakaihokenroumushi.jp/Portals/0/doc/nsec/kouhou/2021/%E7%99%BD%E6%9B%B82021.pdf
令和3年度:44,203人(平均年齢55.82歳)
20代割合:0.3%
30代割合:7.1%
引用:【社会保険労務士白書2022年度版】
https://www.shakaihokenroumushi.jp/Portals/0/doc/nsec/kouhou/2022/2022%E5%B9%B4%E7%89%88%E7%99%BD%E6%9B%B8_2.pdf
令和4年度:44,870人(平均年齢56.04歳)
20代割合:0.4%
30代割合:6.7%
引用:【社会保険労務士白書2023年度版】
https://www.shakaihokenroumushi.jp/Portals/0/doc/nsec/souken/2023/zentaiban.pdf
令和5年度:45,386人(平均年齢56.27歳)
20代割合:0.4%
30代割合:6.5%
引用:【社会保険労務士白書2024年度版】
https://www.shakaihokenroumushi.jp/Portals/0/doc/nsec/souken/2024/hakusho/2shou.pdf
こうして見ると20代~30代の社労士登録者は「合格者」の人数と比較すると圧倒的に少ないことがわかります。
さらに、各年度における20代~30代の社労士登録者の人数の推移も見てみましょう。
- 令和元年:3,645人
- 令和2年:3,478人(前年比-167人)
- 令和3年:3,271人(前年比-207人)
- 令和4年:3,186人(前年比-85人)
- 令和5年:3,132人(前年比-54人)
いかがでしょうか?20代~30代の社労士登録者は毎年50人~200人のペースで微減している状況にあります。
一方で、40代以上の社労士登録者については400人~800人程度増えており、社労士の年齢の高齢化が伺えます。
20代~30代で社労士を目指すことのメリット
社労士の「合格者」はある程度多く、「登録者」はかなり少ないということがわかったという所で、20代~30代の方が社労士を目指すことのメリットをいくつか挙げていきます。
転職で有利になる
社労士に限らずですが、当然努力をして取得した資格があれば転職で優位に働きます。ただ、社労士資格においてはその取得の難易度と専門性の高さゆえに転職市場ではかなり重宝されます。
ただ、後述しますが「実務未経験」の場合は応募する企業の種類によって対応が分かれるかと思いますので、その点では注意が必要です。
しかし少なくとも、合格率6~7%の資格を突破するための努力や、継続して学習し続けることができる忍耐強さは面接の場においても間違いなく評価されるでしょう。
筆者は社労士試験勉強中に転職活動をしたことがありますが、若くして難関資格の勉強しているだけでそれなりの評価を受け、内定まで至った企業が何社もあります。
日本における社会人の平均的な勉強時間は、1日13分と言われているので、難関資格に挑むということ自体が主体性ありと思われるのでしょう。
令和における労務管理において需要が高い
どういうことかというと、社労士として実務を行っている方の平均年齢は56歳です。
一方で、近年の労働問題というのはネットから得られる情報戦とも言われ、例えばインフルエンサーがSNSに投稿する「会社が教えてくれない○○制度」「○○するのは違法」といった情報が数多に出回っています。
もちろん、有益な情報も当然あるのですが、一部の情報は間違っていたり、読者が誤って解釈をして会社に主張してくるケースが非常に多くなりました。その年齢層が20代~30代といったSNSに精通した世代であるため、同年代の専門家が指摘する方が説得力があるのです。
また、近年では面談代行や外部ハラスメント相談窓口といった、従業員向けのサービスを展開される社労士も数多くいます。
やや偏見にはなってしまいますが、同年代の相談については同年代が行った方が解決に導きやすい傾向があります。
そういった意味では、20代~30代の社労士というだけで、「差別化」という意味ではアドバンテージを持っていることになり得るのです。
同世代の中でより適正なライフプランを組むことができる
ライフプランと聞くと「ファイナンシャルプランナー(FP)」のイメージを強く持たれるかと思いますが、FPの科目の一つである「ライフプランニング」は社労士の知識を浅くした科目になります。
- 傷病手当金、出産手当金、出産育児一時金、高額療養費
- 育児休業給付金、介護休業給付金
- 労災保険給付
- 雇用保険の失業手当
- 老齢年金、障害年金、遺族年金
- 確定給付年金、中退共、確定拠出年金
社労士試験ではこれらの制度についてFPよりもかなり深く学習します。そして、日本における社会保険制度は諸外国と比較してかなり手厚いものとなっているため、その恩恵を感じることができるでしょう。
実生活に密接した知識を習得することで、若い頃からより効率的かつ正確なライフプランニングを立てることができるのも社労士資格の魅力です。
20代~30代で社労士資格を取った後の活かし方
メリットを解説した所で、じゃあ社労士試験に合格したらその資格をどうやって活かせば良いの?という疑問が浮かぶかと思います。
続いて、社労士資格を取った後の進路について解説していきます。
独立開業する
「説明を聞くまでもなく、初めから独立を考えていた」という方も多いかと思います。では、社労士が独立開業するにあたってどのような手順を踏むかをここでは紹介します。
【実務経験が無い場合】
- 事務指定講習を受ける
- 登録する
【実務経験がある場合】
- 登録する
え、それだけ?と思われる方も多いかと思いますが、これだけです。
社労士資格を含めた八士業の資格の良い所は、試験に合格した後、登録すれば即独立が可能という所です。
もちろん登録料、年会費など諸々のお金はかかりますが、それでも20万円もあればお釣りがきます。(事務指定講習は別途費用がかかります)
とはいえ、いきなり独立は抵抗があるかと思うので、20代~30代であれば最初は「副業開業」をオススメします。
「副業開業とは」については別の記事で解説致します。
企業の総務人事部で働く
安定した収入を求める方の場合は、こちらの方が合っているかもしれません。いわゆる「勤務社労士」と言います。
代行できる手続きは所属している会社の手続きのみとなってしまいますが、正式に「社会保険労務士」を名乗ることができます。
会社によっては資格手当などが付き、年収アップにも繋がる可能性もあるので、こちらもオススメです。
社労士法人や社労士事務所で働く
最後は社労士業を生業としている法人や事務所で働くという道があります。「開業前に実務経験を学びたい」場合や「社労士法人で安定した雇用を確保した上で勤務したい」と考えている方にはベストな選択肢かと思います。
また、社労士業界全体で若手の人材が不足しているので、20代~30代で社労士の有資格者であれば実務経験が無い若しくは乏しくても採用される確率は高いでしょう。
二点ほど注意点があり
- 給与水準が低いため、割り切る必要がある
- 事務所によっては激務、パワハラ、不当解雇の温床となっている可能性がある
1つ目は実務経験をさせてくれる場所として割り切れれば良いとして、2つ目については同じ社労士としては非常に残念なことです。
社労士法人・社労士事務所なんだからホワイトなんでしょ?と思われるかと思いますが、実際は合法的なパワハラを試行してきたり、気に入らない職員は解雇してしまう事務所もあるそうなので、社労士法人や社労士事務所に就職される際はよく見極めてから入社を検討いただくのが良いかと思います。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
- 20代~30代社労士の「合格者」はそれなりに多い
- 20代~30代社労士の「登録者」はかなり少ない
- 転職ではかなり有利に働く
- 現代労務管理において「若手の考え」は有利になり得る
- 適正なライフプランを組みやすい
- 独立開業・一般企業勤務・社労士事務所が一般的な選択肢
以上が今回の記事のポイントになります。
若手社労士が少ないという点に関してはチャンスと捉えるかどうかが重要かと思います。この記事の情報が社労士を目指す20代~30代の働き盛りの方々の一助となれば幸いです。
今後も社労士や社労士試験に関する情報を発信していきますので、ご参考になさっていただければと思います。