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顧問社労士とは?その役割と必要性を解説
「社会保険労務士」という職業は何となく聞いたことがあるかと思いますが、具体的にどのような仕事をしているのか、どのような仕事を依頼できるのかを、正確に把握されている方は少ないのではないでしょうか?
そこで、今回は顧問社労士について深掘りして説明していきたいと思います。
ポイント
顧問社労士の基本的な役割とは
会社経営にはさまざまな知識が必要ですが、その中でも顧問社労士の役割は「会社の人事制度や労働に関する業務」をサポートする存在です。
「人」を雇う会社にとって、「労務管理」は避けて通ることができません。
また、会社を経営していると売上に直結しない業務、つまり「間接的な業務」というものが発生します。
例えば「総務部」や「人事部」がその例ですね。
顧問社労士は総務部や人事部に関する業務において、従業員を雇用せずに外部委託して人事労務に関する業務を行ってもらうイメージと考えていただくと良いかもしれません。
さらに詳しく
【社労士に依頼できる主な業務】
●社会保険等の手続き
●労務相談(ハラスメント対策、人間関係調整)
●給与計算
●就業規則の作成・改訂
●採用支援
●勤怠管理 など労務管理全般に関する総合的なアドバイス
企業における顧問社労士の重要性
社会保険や労働保険の手続きは、定められた期限までに行わないとペナルティが発生したり、労働者から指摘されてしまったり、トラブルに繋がるため、迅速かつ正確に行う必要があります。
さらに、社会保険制度や労働保険制度の複雑化により、事業主や人事担当者が誤った認識のまま手続きを行ってしまい、労働者側からの訴訟や告発に繋がってしまったり、専門的で高度な知識が必要とされるようになりました。
顧問社労士に業務を依頼することで、頻繁に行われる労働保険・社会保険に関する法改正などの最新情報に対応が出来たり、ハラスメントなどの人間関係トラブルについて、適切に対処することができます。
顧問社労士が必要なタイミングと検討ポイント
筆者は社長ひとりで事業をされている企業や、従業員数が10人未満の事業所については、はっきり言って顧問社労士は必要ないと思っています。
なぜなら、社労士に依頼をする方法として「顧問社労士」以外に「スポット依頼」という料金形態があり、ほとんどの社労士法人、社労士事務所でスポットでの対応が可能です。
ココに注意
ただし、従業員数が10人未満の事業所であっても下記に該当する場合は顧問社労士を検討することをオススメします
✅障害福祉・介護・医療・保育・建設・運送業など、労働保険・社会保険において特殊な取り扱いや助成金が発生する業種の場合
✅従業員数が10名未満でも雇っている従業員の中に素行が怪しい従業員がいる場合
✅従業員数10名未満にも関わらず人事担当者を雇用している場合(※後述の「顧問社労士を依頼するメリット」をご一読ください)
✅事業の拡大スピードが速く、スタートアップ時から人事制度の構築や労働環境を整えていきたいと考えている事業所の場合
顧問社労士のメリットとデメリットを徹底比較
では、顧問社労士と契約することで、会社に対してどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか?
顧問社労士を依頼するメリット
顧問社労士と契約する最大のメリットは、顧問料が安いので人件費を節約できるということです。
「いやいやまてまて、顧問社労士って月に安くても20,000円、高いと50,000円以上もするんでしょ?」と思われる方もいるかもしれません。
ところが視点を変えてみると、下記のようにも考えられます。
💡高度で専門的なアドバイスをくれる職員が月給2万円~5万円程度で働いてくれる。
例えば人事職の従業員を1人雇う場合いくらかかるか計算してみましょう。
東京都の最低賃金で雇用した場合
1,163円(時給)×8時間(所定労働時間)=9,304円(1日あたり)
9,304×21日=195,384円(月給/顧問料相当額)
いかがでしょうか?
よく、社会保険関係の業務は自社の人事部で対応できるから、顧問社労士は必要ないと仰られる事業主の方がおりますが、実は顧問社労士に顧問料を払うより遥かに高額な"顧問料"を専門家ではない人事担当職員に支払っていることになるのです。
もっと詳しく
「でも、人事職員はその他の業務もしてくれるし…」
果たして、本当にそうでしょうか?
リモートワーク勤務での統計になりますが、勤務時間中にサボった経験がある人の割合は約8割にものぼります。
サボった時間の中央値は「30分以上1時間未満」ですので、昼休憩以外の小休憩やトイレ休憩等も含めると1時間程度サボる方が大多数となります。
サボり時間に対してどれだけ人件費がかかっているかというと、
サボり時間の人件費
人事担当職員1人あたりのサボり時間の人件費だけで顧問社労士と契約ができてしまいそうですね。。
一方で、顧問社労士であれば、必要に応じて連絡を取り依頼をして対応する業務フローが決まっているので「サボる」という概念はありません。そういった意味で、人件費の削減効果は大きいと言えるでしょう。
顧問社労士契約のデメリットと注意点
では、顧問社労士と契約することによるデメリットとは、どのようなものなのでしょうか?契約後に後悔しないように顧問契約のデメリットや注意点についても解説していきます。
デメリットとして一番多いのは、契約した顧問社労士の担当者との相性だと思います。
一般的に顧問社労士契約は1年間であることが多いので、いざ契約を開始して「あまり合わないかも…」と感じたとしてもすぐには顧問契約を解除することができません。
さらに、他の事業主の方の紹介や税理士を通じての紹介で契約した顧問社労士の場合は尚更契約解除を申し出にくくなります。
もちろん、紹介で契約することが悪いわけでは無いのですが、ヒアリングの際には顧問契約を予定している社労士の方の人柄や知識のレベル、どのように対応してくれるのかなど、長くお付き合いできそうかどうかをチェックする必要があるでしょう。
また、社労士にも「得意分野」があるので、会社が求めている業務に対応できるかどうかも、契約前に確認しておくべき大事なポイントです。
実際にお受けした相談の一例を挙げていくと
✅顧問社労士契約をしているが、助成金申請には対応していない
✅顧問社労士契約をしているが、障害年金の支給申請は行っていないためスポットで依頼できる社労士さんを探している
✅処遇改善加算のアドバイスを受けたいが、顧問社労士は福祉専門ではないため困っている
顧問社労士契約+スポットで社労士に依頼だと、その分余計に費用がかかってしまうので最初の顧問契約の段階で希望する業務に対応ができるかどうかを確認してから顧問社労士契約を結ぶようにしましょう。
ココに注意
顧問社労士の費用相場とは?料金詳細を解説

続いて、顧問社労士の費用について一般的な相場も踏まえて解説していきます。
顧問料の月額の相場を知る
顧問社労士と契約をするにあたって、費用の相場については知っておきたい所かと思います。
給与計算の有無や請負う業務の内容によってもある程度変動しますが、一般的には下記のような料金体系が相場と言えるでしょう。
従業員数 | 顧問料の相場 |
---|---|
10人未満 | 20,000円~30,000円 |
10人~19人 | 30,000円~40,000円 |
20人~29人 | 35,000円~45,000円 |
30人~49人 | 45,000円~70,000円 |
50人以上 | 80,000円~ |
この基準よりも安くても高くても相場ではありません。
相場よりも安い場合は対応スピードや、アドバイスの質が落ちますし、高い場合はそれ相応の付帯サービスが付いているべきです。
顧問社労士費用が変動する条件
では、なぜ社労士事務所によって顧問社労士費用が変動するのでしょうか?
それは、前述の通り社労士事務所が提供しているサービス内容や情報提供の質、訪問頻度に大きく左右されるからです。
イメージが湧かないかと思いますので、いくつか顧問社労士契約のパターンをご紹介させていただきます。
📕顧問社労士費用 パターン①
【業種】小売業
【従業員数】5名
【訪問】なし(電話・メールのみ)
【労務相談】あり
【社会保険等手続】あり
【給与計算】なし
【助成金申請】なし
顧問社労士料:11,000円/月額
ココがポイント
📙顧問社労士費用 パターン②
【業種】製造業
【従業員数】9名
【訪問】なし(電話・メールのみ)
【労務相談】あり
【社会保険等手続】あり
【給与計算】あり(集計あり)
【助成金申請】なし
顧問社労士料:24,500円/月額
ココがポイント
📗顧問社労士費用 パターン③
【業種】サービス業
【従業員数】25名
【訪問】あり(月1回)
【労務相談】あり
【社会保険等手続】あり
【給与計算】あり(集計なし)
【助成金申請】あり
顧問社労士料:45,000円/月額 (助成金については着手金無料:成功報酬15%)
ココがポイント
助成金の申請については顧問社労士料には含まれず、別途で費用が発生する事業所がほとんどです
📘顧問社労士費用 パターン④
【業種】福祉介護業
【従業員数】11名
【訪問】なし(電話・メールのみ)
【労務相談】あり
【社会保険等手続き】あり
【給与計算】なし
【助成金申請】あり
【専門業務】処遇改善加算に関する業務
顧問社労士料:30,000円/月額 (助成金については着手金無料:成功報酬15%)
ココがポイント
顧問社労士を依頼する適切なケース

冒頭に挙げた顧問社労士が必要なタイミングについてもう少し深掘りしてみましょう。
どのようなタイミングで顧問社労士を検討するべきかどうかについて解説します。
労務トラブルが発生する可能性への備え
2022年4月に労働施策総合推進法(パワハラ防止法)が改正施行されてから労務管理、人的資源管理に関する状況は以前の物とは大きく変わりました。
今までは軽視されてきてしまったパワハラやセクハラの被害者の声に対して、しっかりと対応しようとする気運が世間では強まり、それに伴い職場環境における人間関係等の問題について、事業主がしっかりと対応しなければならないという風潮が強くなりました。
もちろん、ハラスメントはあってはならないことですし、被害者の声が届くようになったこと自体はとても良いことなのですが、対応する側についても専門的な「対応力」が求められる時代となりました。
その意味では、冒頭の「ポイント」で述べたように、素行が怪しい従業員がいる事業所に関しては顧問社労士との契約は必須と言えます。
もちろん、「なるべくお金を使いたくないから、顧問社労士はいらない」という価値観を絶対に曲げたくないというのであれば、それはそれで経営戦略の一つなので、良いと思います。
一方で、労働問題が発生してしまった後(取り返しのつかない状態)になってから事後にご相談される事業主さまがここ数年で非常に多くなりましたので、労働問題を未然に防ぐという意味で、顧問社労士をご検討・ご活用いただくのが賢明な判断だと私は思います。

ココに注意
参考:厚生労働省 雇用環境・均等局 雇用機会均等課「ハラスメントに関する施策及び現状」
法改正やトラブル対応で支援を受けるメリット
最後に、まとめとして顧問社労士契約によって支援を受けるメリットについて、再度確認していきます。
法改正への迅速対応と専門的なアドバイス
顧問社労士の"売り"はその専門性です。
なので、いくら社労士といえど、専門知識が乏しい社労士とは顧問契約をするべきではありません。
毎年のように改正される労働諸法令に関するアンテナと、それを顧問先に情報提供してくれる社労士が、事業主にとって顧問契約すべき社会保険労務士であるといえるでしょう。
ココがポイント
●法改正に疎い
●説明が曖昧
●自発的な情報提供が無い
これらに該当する顧問社労士との契約は避けるようにした方が良さそうです